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彼は/失踪/しない:アーカイブ
書評ってどっちかっていえば苦手なんスけど、こんなん書いたりしてました。
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彼は/失踪/しない

「時々考えるんだよ。ふらっと電車に乗って、どんどん遠くまで行って、今までの仕事も人間関係も全部捨てて、知らない街で暮らす。単純作業の、肉体労働の職を見つけて、質素なアパートを借りて。狭い畳の部屋で、荷物はほとんどなくて、置いてあるのはCDラジカセが一個、みたいな。誰とも仲良くなることなく、結婚もしない。上司に怒られても半笑いであやまりながら、腹も立てないで、そこで淡々と一生を暮らすんだ」
……というようなことを、うっとり夢見る瞳で語る男性はたいてい、都会で、比較的恵まれた職業についている人だ。
私はなぜか、そういう話をされがちだ。そのたび、「そんなこと考えてるんだ〜」なんて心配顔で聞くふりをしながら、たいてい腹を立てている。
だって、ここではないどこかに行きたいだなんて、いま一緒に過ごしている私に対して失礼じゃないか。酷いことを言ってる自覚もないだろうが。そもそも、「俺は普段は社会性あるけど本来はモラトリアムで憂鬱で狂ってるんだ」なんて甘えた愚痴を女に言っちゃう男は、死にたい死にたいと言ってる人が意外と自殺しないように、 失踪しないと思う。失踪出来ないくせに逃げたい逃げたい言うな! ああもう、怒るのも面倒くさい。
吾妻ひでお「失踪日記」は、本当に失踪した作家の記録だ。いつもの、あの丸くスウィートな絵と淡々としたリズムで、ホームレス生活や失踪中の配管工生活、アル中闘病生活が描かれる。
実際失踪することも、それをマンガに描いてしまうことも、とてもじゃないけど常人には出来ない。「憧れ」の生活だーーー。
失踪しない彼は、これを読んで、ちょっとした失踪気分を味わうのだろう。そして失踪しない生活を続けるのだ。他に方法はない。

(『クイック・ジャパン』への寄稿でした。何号だったか忘れた…05年頃です)

失踪日記
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吾妻 ひでお
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